野次馬トーク
(その7 第75回箱根駅伝を振返って)

(今回のトークは大変長いので、オンラインで読むと電話料の無駄になります。一旦「名前をつけて保存」して、後でオフラインでゆっくりお読みください。)


野次郎
「またまた、箱根が終わって1ヵ月以上たってからのノビノビ総評になったな。」

馬八
「作者もいろいろと多忙だったようだ。まあ、どうせ遅れついでだ、オレ達なりに、じっくりと反芻してみるのもいいんじゃないか。」

【順天堂大優勝!】


「しかし、今回の箱根は、『よもや』と『まさか』の連続だった。ドラマチックと言えばドラマチックだが。」


「まさか、順天が優勝するとは思わなかったな。」


「あらゆるマスコミ・陸上誌の予想がことごとく外れた。『駒沢の優勝間違い無し』と言った人は、丸坊主にならないといけないんじゃないか?」


「まあ、オレ達だって駒沢絶対優位説ではなかったものの、順天の優勝を予想したわけじゃないから、余り大きな顔は出来ないけどね。」


「オレ達は順天をダークホースには一応入れて、『順天堂は三代と2年1年の下級生のチームだ。1年生が予想外の活躍をすれば面白いと思う。今回も「復路の順大」になるかどうかも見物だ。』とは言っておいたが・・・。1年生と2年生が予想外の大活躍をし、復路で大逆転を演じた。」


「しかしね、2か月前の全日本大学駅伝の記録をもう一度見て欲しいな。順天は8位だよ。
全日本が箱根の前年の11月開催に変更され、箱根の前哨戦として位置付けられるようになってから11年になるが、全日本で5位以下のチームが箱根で優勝したことはなかった。箱根70回大会で全日本4位だった山梨学院が優勝したが、これが最低順位だ。まして今回は8位のチームだよ。」


「全日本の区間順位を見ても、高橋が12位、岩水が10位、榊枝が6位、宮井が12位、奥田が7位、入船が11位、大橋が5位、三代でさえ4位だった。」


「これでは、誰が考えたって優勝候補には推せないよね。」


「1万mの平均持ちタイムも6位、20kmやハーフの実績も特に良くない。どう贔屓目で見たって優勝するデータは見当たらない。大学関係者だって順大の優勝を予想した人は皆無のはずだよ。箱根の常識がひっくり返ったわけで、誰もが予想し得なかったことだ。」


「ということは、この2か月の間に大変身したということかな?」


「そう、おお化けだね。1・2年生が11月以降の2ヵ月間で急成長したんだろうな。」


「それにしても、順天の優勝は、やはりミラクルに近いよ。もっと言わせてもらえば、ちょっと出来過ぎじゃないかな?」


「沢木マジックが復活と言われているが、沢木監督自身も『3強・3強というのは、終わったときの3位までのことだ』とYKKが3強と言われることに不快感を抱き、YKKの一角を崩す自信は持っていたようだが、はっきり優勝するとまでは思ってなかったようだ。」


「三代効果が大きいのかな。3年の時からキャプテンとしてチームを引っ張って来て、ある種のカリスマ性のようなものがあった。今回、2区で渡辺康幸の記録を2秒破って区間新を出し、何かチーム全体に憑き物がついたように、乗りに乗った感じだ。
10人全員が最高のコンディションで最高の走りを見せた。これは野球のピッチャーの完全試合のようなもので、そうしょっちゅう実現出来る事ではないと思うけどね。」


「うん、ただ、順大は2年前の97年の新入部員が『豪華』で『インカレ・箱根は順大に注目。今年の箱根駅伝は9位に終わったが沢木監督の胸の中では、2年、3年後の青写真ができあがっているようだ。』と当時の陸上雑誌に書かれたが、その時注目された高橋謙介・宮崎展仁が期待どおり成長し、三代を大黒柱に完全に一つにまとまって、描いた青写真が実現したとも言える。」

【YKKの敗因】


「YKKがこれだけ堅いと言われながら、脆くも敗れ去ったのはどうしてだろう?」


「オレ達が優勝のキーワードとして『意外性と安定性と総合力』を上げたが、『意外性』というのは『プラスα』の力を出しているかどうかでもあるね。100%以上の力を出し切っているかどうかだ。
まさに順天がどの選手も持ちタイム以上の、120%の力を出し『意外性』を発揮したのに対して、駒沢は往路では計算通り『安定性』を見せたものの、復路では意外性も安定性も出なかった。
また神大・山梨は、反対に『マイナスの意外性』で敗退してしまった感じだな。」


「往路が終わった時点で、駒沢はほぼ優勝を決めたと誰もが信じて疑わなかったし、本人たちも確信したようだったが・・・。」


「オレ達の『トーク(その6)直前大胆予想』で、『駒沢が優勝・優勝と余り口にすると、思わぬ落とし穴が無いとも限らない』と話したが、本当に復路に大きな落とし穴が待っていた。」

【駒沢の敗因】


「駒沢の敗因として、第3のエース大西が故障で走れなかったことを上げる人もいるが・・・・。」


「大西の欠場は勿論大きく響いているが、もし彼が走っていたとしても、順天に逆転されずにすんだかどうか、最終タイム差4:46から見ると微妙じゃないかな。」


「また駒沢の敗因に、往路で順天堂に大きな差をつけられなかったことも上げれられている。
往路でかなり差を広げておけば、逃げ切れたんだろうが・・・・。」


「往路に西田・佐藤・藤田・神屋の10,000m28分台4人と揖斐の主力選手5人を投入し、念願の往路初優勝を果たした。
往路の駒沢のタイム5:32:23は歴代5番目のタイムで勿論良いタイムだが、藤田が驚異的な区間新を出した割には飛びぬけて良いタイムとは言えないね。2位順天に1分50秒しか差をつけられなくて、逃げ切る貯金としては不十分だった。」


「それにしても、今回の駒沢の復路は予想外に良くなかったね。」


「駒沢の復路順位は何と5位で、復路では順天に6分36秒もの差をつけられている。
往路は計算どうりだったのだろうが、逆に復路が手薄になってしまって、7区前田以外は余り良いところが無いまま、9区で逆転されてしまった。駒沢は往路と復路のバランスがとれず、結果的に10人揃わず駒不足だったことになる。これが最大の敗因かな。」


「復路のデータで、興味深いデータを見つけたんだって?」


「うん。復路で駒沢は5位だったが、この20年間、復路順位が3位以下のチームが優勝したケースは全く無い。必ず1位か2位には入っているのがわかった。
もう一つ。過去、7区の時点で復路4位以下のチームが優勝したのは65回の順天だけというデータもある。7区の時点で復路3位で優勝したケースが3回あるが後は全て2位以上だ。
駒沢の7区前田は先頭を走っていて、順天との差を少し広げ、優勝に一歩近づいたかと思わせたが、復路での順位は4位だった。だから実はこの時点で駒沢の総合優勝には黄色信号が点灯していたとも言える。」


「往路で勝ってただ流れに乗っていれば勝てるというものではないんだ。復路でいかにしっかり上位につけているかが非常に大事なんだね。」


「確かに復路の順位やタイムは判りにくいが、ここらを把握していると先の勝負が読めることになる。
ある人が、TV中継でタイムや順位を表示する際に、総合通算と併せて復路の通算タイム・順位を表示すべきだと言っていたが、鋭い指摘だ。」


「往路で勝って、復路で順位を下げても総合で逃げ切って優勝するためには、どれくらい往路で貯金してないと駄目なんだろうか?」


「今回の駒沢は芦ノ湖で順天堂に1分50秒の差だった。これはやはり十分な差ではないね。過去、復路で追い上げられ逆転されても逃げ切って優勝したケースを見ると、芦ノ湖で3分以上の差はつけている。55回の順天が3:33の貯金を、復路2分ひっくり返されたが逃げ切っている。また、57回の順天が4:37差、59回の日体が6:39差、61回の早稲田が6:13差、66回の大東が4:10差、67回の大東が10分と、それぞれ復路で負けたチームに対し、往路でかなりの貯金を作って逃げ切っている。」


「なるほど、今回の往路1:50の貯金では全然足りなかった訳だ。」


「ただ駒沢の問題点はそれだけではない。区間賞の少なさも問題だ。
駒沢は区間賞が4区藤田の一つだけだった。この20年間で区間賞1個で優勝したチームは無い。必ず2個以上区間賞を取っている。
今回の順天は3個、去年の神大は4個取っている。駒沢は10,000m28分台6人と凄いメンバーが揃ったと言われたが、藤田以外はその凄さを発揮出来なかったことになる。」


「駒沢は、全日本では区間賞を4つも取ったが、箱根では1個だけで、全日本のような圧倒的な迫力が見られなかった。」

【神大と山梨の敗因】


「神大は今回も区間賞を3つも取りながら総合3位に終わったが、3つも取って優勝できないという例も、無くは無いが極めて稀だよね。サポーターとしては本当に残念だが、敗因は実力不足ではなく故障によるアクシデントだから、きれいさっぱり諦めるよりしょうがないと思うな。」


「山梨はよもやの6位。2区古田の不出来が全てと言ってしまえばそれまでだが、他の選手も名古屋ハーフで見せたハイレベルの実力を出し切れないまま、終わってしまったようだ。
山梨は65回大会から去年の74回まで連続10回、必ず1個以上の区間賞を取ってきたが、今回は区間賞ゼロだった。」


「コンディショニングが完璧だった順天に対し、神大と山梨は、ポイント区間で故障の影響が出てしまい、競り合う以前に自ら敗れ去った感じだ。」


「そうだな。故障の有無による明暗の差がここまではっきり出た大会も珍しい。直前に故障が出たことや、夏や秋からずっと故障を引きずって、十分な練習量を確保できていなかった影響が、もろに本番に、しかも2区と5区のポイント区間出てしまった。」


「各チームとも、故障と紙一重のぎりぎりの練習をしているらしいが、故障の出ないような身体作りとか練習方法とかは無いものかな?」


「まあ、陸上・駅伝だけでなく、どんなスポーツにとっても永遠の課題なのかな。節制とか食事とか、いろんな要素があるんだろうが、決め手は無いのかな?
故障が勝敗を分けてしまうんだから、何とか対策しないといけないと思うけどね。」

【1区】


「順天とYKKの総論的分析はこれくらいにして、各論として、1区から順に見ていこう。」


「1区は、非常にスローペースの展開だったな。17kmまでダンゴ状態で、見る側からするとイライラするくらい遅いペースだった。
東が終盤に抜け出て拓大初の区間賞を取り、西田・小松が追って、最後に胸一つ小松がリードして2区へたすきを渡した。小松は力を温存したと言っていたが、10,000m持ちタイムはトップなのだから、もっと積極的に飛ばしても良かったと思う。山梨宮原は最後まで競ると思ったが、33秒も離されてしまったのは意外だった。」


「今回の1区は超スローペースだったから、タイム的には全くお粗末で、区間賞の東でさえ歴代区間ランクの48位にしかならない始末だ。」

【2区】


「2区は、大波乱だったね。」


「三代と山本佑樹が早々と1.9km地点でトップ集団に追いつき、順大三代・駒沢佐藤・日大山本・東海諏訪・神大渡邊・拓殖吉田和の6人の集団になったが、2.5kmあたりから渡邊と吉田が置いていかれ、じりじりと後退、4人の争いになった。さらに横浜駅前で意外にも山本佑樹が遅れ始め、諏訪も横浜駅を過ぎた9kmあたりから少しずつ離され、三代と佐藤裕之の争いになった。2人のデッドヒートが権太坂を降りるまで続き、17kmで三代がスーっと抜け出て、後はダントツの一人旅になった。三代は後半のスピードが凄く、渡邊康幸の記録を2秒上回る1:06:46の驚異的な区間新となった。
駒沢佐藤の1:08:39のタイムは決して悪くはないが、去年の早稲田梅木の1:07:48には及ばず、三代と競った割にはやや物足りないタイムだな。諏訪は12月に故障していたようで、完調でなく、前半こそトップ集団に食いついていたが後半引き離され区間5位に終わった。山本は途中腿の痛みが発生してタイムを落とし、後半少し盛り返したものの去年の1:08:43を1分も下回る1:09:42で区間6位だった。
予想外に頑張ったのが法政の坪田だ。法政の区間3位は6年ぶりのことだ。坪田は一昨年5区で14位と全く目立たなかったが去年急成長して、大学長距離トップクラスに躍り出てきて、今回その実力を十分に発揮した。
早稲田のキャプテン山崎も最後のレースを区間4位で飾った。


「神大渡邊と山梨古田が全く予想外の不振だった。」


「渡邊は29日に腿の後ろに違和感を覚えたが、オーダー登録後で、2区は彼しかいないということで敢えて走ったようだ。やはり痛みが出て苦痛に顔を歪めながらの走りだった。12kmあたりで本来なら抜かれる相手ではない早稲田・中央・法政・拓殖にも抜かれ離されてしまった。肉離れだったようで、大後監督も言っていたが、苦しみながらも、たすきを良くつないでくれたと思う。就職先の実業団アラコで一段と力をつけて、この悔しさを晴らして欲しい。
古田も全日本でアンカーとして、そこそこ走って復活への手がかりをつかんだかと思っていたが、その後また故障の個所がおかしくなり、十分練習できていなかったようだ。まさか区間15位とは!絶句するしかないね。」


「中央も拓殖も上位争いに加わると思っていたが・・・・・。」


「中央小嶋も10,000Mの持ちタイムは28分33秒と素晴らしいが、区間9位と振るわなかった。
拓殖は当然吉田行宏が来ると思っていたが、これも12月に調子を落としたらしく7区に回り、2区は予想外の3年生の吉田和だった。」


「2区はこれだけ役者が揃ったのだから、もっともっとハイレベルな戦いが展開されると期待していたが、三代以外は皆ベストの状態ではなく、レースとしてはいまいちだったな。」


「下位で面白い存在だったのが大東の小林1年生だな。前半こそ、最下位を走ったりしたが、権太坂を過ぎてから猛烈にスパートして残り8kmだけを見ると三代の22:43に次ぐ23:51のタイムだ。あの腕を左右に振り足を引きずるような独特のフォームは、先輩の奈良修を彷彿とさせるが、馬力があり、今後面白い存在になりそうだ。」

【3区】


「3区は、順天入船が快調に飛ばし、2位駒沢揖斐との差は広がる一方だった。後半さすがバテてペースは落ちたが、トップを維持して区間3位で平塚中継所に入った。
駒沢揖斐はやはりオレ達が心配した通り、20kmを走り切る力はまだ不十分だったようで、区間8位で順天との差を広げられてしまった。東海高塚主将は区間7位とまずまずで総合3位を守ってたすきを渡した。」


「神大野々口は去年と同じ3区だが、去年の前半オーバーペースの教訓を活かし、今年は抑えて入り、後半かなりペースを上げて、4人を次々に抜き去り順位を6位にし、1:04:18で区間賞を取った。ただ、高津が70回大会で出した記録1:03:32には及ばなかった。
山梨近野は最下位争い状態で前半飛ばしたが、最後にペースが落ちて区間9位、総合順位も14位のままだった。
中央石本キャプテンは西脇工出身で期待されながら、故障続きで余り実績を残していなかったが、今回区間2位で、最後にやっと期待にこたえたという感じだ。」

【4区】


「駒沢藤田敦史の走りが凄かったね。」


「平塚中継所での順天と駒沢との差は2:20だったが、駒沢藤田敦史が猛烈に追い上げ、15.5kmで順大の大橋をとらえて一気に抜き去り、小林雅幸の区間記録1:01:35を39秒も上回る1:00:56の驚異的な区間新で、小田原では逆に1:06も差をつけた。
2区を佐藤裕之に取られて発奮したのかな。
藤田には2区を走って、三代と藤田の学生No.1争いを2区で決着つけて欲しかったという気もするが、記録としては2区の三代・4区の藤田と凄い区間新記録が2つも出たのだから、かえってこの方がよかったかもね。」


「神大辻原も見せ場を作ってくれた。」


「神大辻原は6位でたすきを受け、まず拓殖をかわし、中大藤田将に9.4km付近で追いつき、平走状態が続いたが、ラスト4km(16km地点)で中央藤田に離され、総合5位(区間3位)で小田原中継所に入った。
山梨は西川が追い上げ、6人抜きで順位を14位から8位まで上げたが、区間5位と去年の9区での区間2位に比べ、やや物足りない結果に終わった。
また早稲田佐藤敦之も故障上がりで頑張ったが区間4位だった。」

【5区】


「5区山登りも予想外の波乱だった。
駒沢は1年生神屋を山登りに起用。順天は去年も山登りで区間11位だった佐藤功二を起用。神大は去年ここで大逆転を演じた勝間を、山梨は去年の区間賞横田を起用し、役者は揃った。
オレ達も勝間が快復していれば去年のように大逆転まで行かなくても、かなり詰めて、復路に期待がつながると思ったが・・・。」


「確かに、神大と1位駒沢との差が4:38、去年の駒沢との差1:13に比べて3分半以上開いているが、勝間が去年に近い走りを見せ、2分台に差を詰めておけば、復路で逆転も不可能ではないと見ていた。
しかし、神屋が順調に登って行くのに、勝間はまったくペースが上がらないというTVの報道が流れて、「うーん」とうなってしまったね。
結果は区間11位1:16:43と去年より5:15も余計にかかってしまい、日大にも抜かれて順位を一つ落とし、6位で芦ノ湖へ着いた。1位駒沢との差は8:06、2位順天とも6:16と広がってしまった。」


「勝間は横須賀シーサイドでは神大内18位とまだまだだったが、その後12月6日の日体大記録会10,000m、29:14で神大内6位と復活してきているように見えたのだが・・・。やはりこの1年間腰痛などの故障続きで十分に練習できなかったつけが箱根の山で一気に噴出した感じだな。」


「神大サポーターとしては、こうなると、すぐ上の5位日大は勿論、4位中央、3位の東海まで食って、3位に入り、全日本大学駅伝のシード権だけは確保して欲しいと思ったね。そのためには復路優勝をなんとしても実現して欲しいと願った。」


「山梨横田もペースは全く上がらず、区間8位とこちらも実質ブレーキ状態だった。やはり故障から完全には立ち直っていなかった。」


「2区といい、5区といい、神大と山梨が奇しくも同じ区間で大ブレーキを起し、71回大会の高嶋康司・中村祐二の途中棄権と似たパターンになり、仲良くブレーキで、これも何かの縁かな?」


「順天佐藤は去年の山登り区間11位とは別人のような無難な走りで区間3位と、総合2位をキープ、駒沢との差は44秒広がっただけで、1:50と2分以内に抑える健闘だった。これが結果的に大逆転の伏線になった。」


「区間賞は東海の1年生柴田真一が1:12:35で取り、去年のルーキー勝間の1:11:28には及ばないが、1年生としては歴代2番目の好タイムで、東海大に昭和49年50回大会の1区以来、25年ぶりの区間賞をもたらした。」

【6区】


「6区は中澤の大記録が全てだ、それに尽きる。」


「予想通り、駒沢は4年連続山下りの河合にエントリー変更し、トップで山を下って行った。タイムは去年の1:00:26よりは良いが、2年生の時のタイム59:42より悪く1:00:20、区間6位と順位もいまいちで小田原へ着いた。今にして思えばやや不安な材料だった気がするが、この時はそれでもまだ順天がひっくり返すとは誰も思っていなかったな。」


「神大中澤は、去年以上のペースで57分台を狙って意欲的に飛ばし、4位日大を10分もしないうちにとらえ抜き去り、まさに飛ぶような走り方で、小田原では3位中央に迫り、1位駒沢との差を6:06まで縮めた。
中澤は念願の57分台こそ成らなかったが、58:06と去年の区間記録をさらに38秒も上回る大記録を達成した。」


「陸マガに『谷口浩美の区間記録を実質的に更新』と書いてあったが、オレも中澤の区間記録が、59回大会(昭和58年)の谷口選手の57:47を破っているかどうか興味があった。
陸マガの記事を見て、遂に破ったかと思ったが、ちょっと気になることがあった。というのは、関東学連の『箱根駅伝70年史』には『小田原中継所が100m移る』と書いてあり、これが事実だとするとわずかながら及ばないことになる。そこで読売新聞のサービスセンターで58年の新聞記事を調べてもらったら、6区は「20.5km」と書いてあり、現在が20.7kmだから、200m延びていることがはっきり確認できた。だから陸マガの記事のとおり、中澤の記録は谷口選手の記録を上回る最高タイムとしてはっきり確定したわけだ。」


「中澤が小田原でたすきを渡した直後に、テレビのカメラに向かって大きな声で怒鳴った。オレは一瞬テレビカメラマンと何かトラブルでもあったのかと思ったが、後でビデオを再生したら、『神大、諦めるなよ!』と後の選手にメッセージを送っていたのだった。NHKのラジオで解説していた金さんたちが『感動した』と言っていたな。」


「その夜の神大体育館での『活躍を讃える会』で初めて、3日前に中澤の膝が全く動かなくなる故障が発生し、鍼で何とか治しての出場と知り、本当にびっくりした。その凄さに改めて感心したね。」


「山梨はトップ駒沢と10分以上の差で一斉スタートになった。エントリー変更し3年連続の境田ではなく、黒岩が走ったが、区間10位で総合順位は8位のままだった。」


「この他6区では、東洋大の1年生金子が途中までは去年の中澤に匹敵するタイムで走り、後半ペースが落ちたが、59:58で区間3位と健闘し、シード権確保に貢献した。」

【7区】


「駒沢前田が区間3位とまずまずの安定した走りで、順天政綱(区間4位)との差を1:52に広げ、駒沢がやはり優勝に向けて一歩近づいたかに見えたんだけどね。」


「総論で話したように復路順位を6位から4位に上げたが、実は黄色信号だったんだ。」


「神大は、やり直し1年生飯島に期待がかかったが・・・・。」


「飯島は3kmで中央をとらえたが、その後引き離すには至らず平走状態が続いた。区間5位タイムは1:05:58と、特に悪いと言えず、ほどほどの走りだったが、持ちタイムがトップだったことからすると不完全燃焼の感じだね。
山梨ワチーラは今大会持ちタイムNo1だったが、例によって前半飛ばし後半バテるパターンになってしまって、拓殖吉田行宏に区間賞を持って行かれ区間2位だった。日本インカレ10,000mで、こけそうになったアクシデントがずっと尾を引いて練習が十分に出来なかったらしい。それでも2人抜いて総合順位を6位に上げた。」

【8区】


「駒沢上原は快調に走っているように見えたが、順天1年生奥田がじわじわ追い上げ、駒沢と順天との差は着実に狭まって行った。」


「ここらあたりから、ひょっとすると順天の逆転優勝がありうるかと思われ始め、俄然勝負としては面白くなってきたんだ。TVの視聴率もこの頃からぐんぐん上がったみたいだ。
戸塚中継所では、ついにその差が1分を切って58秒差まで縮まり、これは大変なことになったと思ったね。」


「神大は1年生土谷からエントリー変更で同じ1年生の相馬が出てきて、はじめはどうなるかと思ったが・・・・。」


「相馬は中央の富田と1年生どうしで競っていたが、藤沢の14km地点で突き放し、さらに遊行寺の坂の途中16km地点で3位東海をとらえてついに待望の3位へ上がった。相馬は1:06:07の区間賞だった。1年生での区間賞は、神大では72回の渡邊以来2人目。今後エースとして成長が期待されるね。強力な1年生は神屋や揖斐だけではない、いやむしろそれを超えた存在だということを、5区の区間賞東海大柴田とともに、十分にアピールしてくれた。」

【9区】


「9区は順天2年生高橋の走りが凄かった。一躍学生陸上界トップクラスに躍り出た感じだ。」


「戸塚を出てから、順天高橋が着実に差を詰めていき、10kmの権太坂を下った狩場あたりで駒沢北田に追いつき、その後2人でしばらく平走、16.5kmの横浜駅を過ぎた地点高橋が一気に突き放し逆転、順天優勝の立役者になった。
高橋の区間新は、先輩浜野の記録1:09:30を13秒上回る1:09:17だが、浜野の時は強い追い風が吹いていたのに、今回は向かい風の中で出したもので驚異的な記録と言って良い。
駒沢北田は、出雲・全日本で区間賞とっていて、復路のエースとして期待されたが、区間4位と振るわなかった。北田は給水で、足に水をかけたことで急速に足が冷え動きが悪くなり、また血豆が切れたことも重なって高橋に差をつけられたようだが、追いつかれた時点で余裕のある高橋とは走り方が全然違っていて、やはりベストではなかったのではないかな。」


「神大の大川は順天高橋との差は開いたが、1:11:10の区間2位でキャプテンとして学生最後のレースを立派に飾った。就職先は平塚市役所で先輩の重田・中里に続き、青東駅伝での活躍が期待される。
山梨森政もようやく山梨らしい粘りの走りで大川と同タイムの2位だった。」


「中央国武はもっと良い走りをするかと思ったが、区間5位とやや不振だった。」

【10区】


「鶴見中継所で、順天と駒沢との差は1:33と開いてしまったね。」


「10区は順天が宮崎、駒沢は増永と2年生どうしだが、実績から言って、スタート時点でもう勝負あったという感じがした。やはり快調に飛ばす宮崎に増永はじりじりを差をつけられていった。
23kmに延びたコース変更も順天と駒沢の争いには関係が無かった。宮崎も区間賞で悠々とゴールテープを切った。」


「神大は無名の4年生平野泰輔に期待がかかり、順天との差を1分05秒以内に維持して走りきれば復路優勝という場面だったが・・・・。」


「平野はいつもの調子が出ず、八つ山橋では1:51差になり、その後じわじわ差が広がり、最終的には復路では6:13の差になり、復路2位に終わった。平野のタイム1:15:10、区間11位というのは予想外の不振だね。横須賀シーサイドのタイムから見て、うまくすれば1時間10分台、悪くても1時間12分台で十分走れる選手のはずだ。調整がうまく行かなかったのか、あるいは向かい風が強く、軽量級の彼にはちょっときつかったのかとも思うが、残念だった。
ゴール直前では4位中央に15秒差まで迫られ、23kmに延びた距離がもう少しで裏目に出るところだった。」


「順天の記録は11:07:47だったが、これを去年の神大の記録と比較すると、どうだろうか?」


「去年までのゴール地点である10区の21.3kmでのタイムをTVで確認したら、11:02:24だった。また去年の神大のゴールタイム11:01:43の通過kmを同じくTVで確認したら21.23kmだった。勿論距離が延びた分を考慮する必要があるが、いずれにせよ神大の去年の記録にはわずかに及ばなかったようだ。」


「また、『れば』、『たら』のIF・仮定の話になるが、神大が2区・5区・10区で普通に走っていたらどうだっただろう?」


「2区で順天と神大の差が5分ちょうど、5区で2:44、10区で4:02、計11:46だ。実際の差が9:13だから渡邊が三代と2分〜3分位の差で、1時間9分を切る位で走り、勝間が去年並みに走り、平野が実力どおりの力を出していれば、かなり競った状態になったのではないか。だから神大がベストの状態なら、駒沢は勿論、順天にも勝てないことは無かったと思うが・・・・。」

【ダークホースの戦いぶり】


「4位以下の各チームの戦いぶりを見ておこう。」


「まず4位中央だが、今年も大崩れは無かったが区間賞もなく、大過なく4位ということだ。1年生杉山智基が出なかったのはちょっと残念だったな。
5位の東海大だが、予選会トップの実力を遺憾なく発揮して5位。ただ往路3位に対し、復路は9位と層の薄さが出てしまった感じだ。」


「6位山梨学院は前に触れたからいいね。次ぎは7位大東大。」


「大東大はシード権が危ないと言われていたが、故障のエース萩原抜きで7位と大健闘だ。特に復路が1年生から3年生までで4年生抜きで復路6位というのは来年以降に明るい材料だ。
日大は山本がそんなに大きな貯金を作らなかったのに、往路の頑張りが効いて、これも8位と健闘した。」

【シード権争い】


「シード権争いが最後までもつれて、非常に厳しい戦いとなったね。」


「タイム差グラフを見ると分かるが、8位日大の11:28:17から9位東洋、10位早稲田、11位拓大、12位日体大の11:30:55まで、5チームが2分半の間にひしめいており、かなり激戦だった。
東洋大は往路が12位とかなり、厳しくなるかと思ったが、復路7位と頑張り、最後の10区で早稲田を抜いてシード権を確保した。」


「早稲田は危ない、危ないと言われていたが、ついに40秒差でシード権を失ってしまった。層の薄さはやむをえないにしてももうちょっと頑張って伝統校の意地を見せて欲しかったな。」


「拓殖もまさかまさかの予選会落ちだ。ダークホース筆頭と見られていたのに、ここまで崩れてしまうとはね。1区東と7区吉田行の2人が区間賞を取っても、余り大きな貯金にならない区間賞だったし、あとが8位・4位・15位・8位・13位・6位・8位・8位と良いところがなく、浮かび上がれなかった。4区の風邪によるブレーキも大きかったが、やはり10人きちんと揃ってなかったことが響いている。」


「日体大は区間順位一桁が1区と、5区の6位だけ、あとは二桁順位で、往路10位、復路10位、総合12位に終わった。同じ体育系の順天が優勝できたのだから、日体大も強化は可能だと思うが・・・。
中央学院は最下位予想が多かったが、13位に食いこんだ。アンカー尾山の区間3位は光っている。」


「法政は坪田が2区で区間3位と頑張ったが残る9区間の内、8区間までが二桁と力及ばずと言ったところだ。
帝京大も予想外の不振だった。予選会2位通過でシード権を狙える位置にいると思われたが、終始最下位争いだった。喜多監督は山梨・神大のように、2〜3年目でシード権確保を考えていたがそんなに甘くは無かったな。」

【来年の展望は】


「来年の展望をしておこう。
やはりJ+YKKが中心という構図は変わらないんだろうね。」


「順天は大黒柱の三代が抜けてどうなるかだが、今の1・2年生がもっと強くなってくる可能性もあり、やはり脅威だね。沢木マジックがこのまま続いて、57・58回の2連覇、62回から65回までの4連覇のような離れ業が可能なチームになるか見物だ。順天の今回の優勝に至る1年間の練習などのプロセスをじっくり見極める必要もあるかもね。」


「神大は4年生が渡邊・中澤・大川・平野と4人抜けるが、小松・野々口・辻原の区間上位の3年生が残り、2年生では勝間、1年生では飯島と相馬が残る。この他今の3年生には、今回は出なかったが新キャプテンの町野をはじめ、全日本で区間上位に入った石本・吉野や野間・中村・蝉谷・上野など粒が揃っているし、また無名の上級生が必ず出てくるだろうし、2年生にも5区にエントリーされていた林健太郎をはじめ鈴木健太郎・植松など有力なランナーが目白押しだ。1年生も今回補欠だった土谷修とか田中俊也・金原など有望な選手がぞろぞろいる。他校なら皆当然エントリーされるような選手ばかりで、層の厚さは抜群だ。」


「問題は大後監督が狙っているように、飛びぬけた存在のエース格に誰が成長するか、それが大きな鍵だ。また中澤の抜けた山下りを誰が走るのか、2連覇の時のような安定度をどこまで確保できるかもポイントだと思う。」


「駒沢は今年、絶対優勝できると確信していただけにショックは小さくないんじゃないかな。」


「しかし、この悔しさをばねに猛烈に練習してきたら凄いチームになりうる。藤田・佐藤の2本柱が抜けた穴は決して小さくないが、大西・西田がどこまで埋め切れるか、神屋・揖斐が今年以上に力をつけてエースクラスに成長してくるか、興味がある。」


「山梨はワチーラ・大崎・森政・横田と中心選手がごっそり抜ける。古田が本当に復活して、実力の面でも精神的な面でも、大黒柱として全体を引っ張っていけるかどうかが問題だろうな。」


「中央は、久保田・石本・小嶋・国武・豊田と5人も抜けるが、大牟田高からの2人をはじめとして、有望新人がかなり入ってくるらしい。でも最近の中央は良い素材がいるのに、無難な走りで終わってしまって、飛躍的に伸びて来てないのが気がかりだ。」


「東海は、諏訪・高塚・高橋の中心メンバーの他、河野・野尻・馬場・大熊と今回7人も4年生が走った。柴田に続く人材が出てこないと大変じゃないかな。来年どうなっちゃんだろうな?他人事ながら心配だ。」


「早稲田は、山崎が卒業するが、高校駅伝1区日本人1位の西脇工の中尾が入ってくるらしい。予選会は突破できると思うが、まだまだ層は薄く、厳しい状態が続く気がするな。」

【サッポロビール応援団】


「箱根駅伝の最中にサッポロビールのホームページで各大学の応援団員を公募していたが、最終結果の団員数が面白い。
神大:942人、駒沢:392、山梨:482、中央:236、順天:134、早稲田:444、日大:127、拓殖:63、大東:83、東海119、帝京:65、東洋75、中学:54、日体:99、法政102人だった。」


「YKKと早稲田のファンが多いのはわかるような気もするが、神大ファンがこんなにダントツに多いのは、ちょっと意外だった。来年はどうなるか、これもまた楽しみだ。」