建設省『「管理組合の預金口座名義についての通達』に関するSaijo私見(1999年9月5日)
(1)通達の内容・問題点
平成11年6月1日、マンション管理業者あてに、建設省建設経済局から「中高層分譲共同住宅標準管理委託契約書等の運用について」という通達が出された。(Saijo注:下の通知文その1参照)
「管理費、修繕積立金等の保管については、その預金口座を管理業者名義にすることがないようにする」ことを徹底するのが目的だ。
通知の内容自体は当然のことだが、その中で看過できないのが、「本来修繕積立金の口座名義は管理組合理事長名義であるべきものであるが、マンションの分譲直後など管理組合理事長が選任されていない場合に限って一時的に「○○マンション管理組合管理代行○○管理会社名義」とすることを想定しているものであり、その後管理組合理事長が選任されたときにはすみやかに当該理事長名義とするべきものである」と述べている点である。
(2)過去の経緯
我々はマンションの預金問題について、8年近く関わって来たが、管理代行名義が「一時的」とは初耳である。
榮高が破産して、預金担保相殺の問題が起きた直後、建設省は「管理組合管理代行○○管理会社名義とすれば、勝手に担保にするトラブルは防げた。」と述べている(平成4年12月22日の朝日新聞の記事)。
もともと、建設省(住宅宅地審議会)が、管理組合管理代行管理会社名義と管理会社代表印鑑の使用を認めたのは、組合理事長名義・組合理事長印鑑の場合は、預金払戻しの都度、遠路、管理組合まで印鑑を取りに行く必要があり、その煩雑さを避けるための、やむをえざる処理方法であると解されていた。また積立金の保管について「何千万、何億と巨額になり、その心理的な負担から自分名義の口座で保管されることを嫌う理事長もおり、そのため、管理会社に保管を委託する組合が多く、そういう実態を受けて建設省が『管理代行名義』の規定をしている。」とされていた。(「マンション管理組合運営の手引き」住宅新報社、143ページ)。
また、かつて榮高の調停を行っている時に、建設省の担当部局の係官に電話で、「管理代行名義だが問題ないか?」と聞いたところ、「問題ない」との返事だった。「一時的」とは一言も無かった。
榮高破産直後の平成4年12月に建設省から「管理業者名義にすることがないように」と通達が出ているが、そこにも「一時的」とのコメントはない。(Saijo注:下の通知文その2参照)
(3)組合は戸惑う?
建設省が標準管理委託契約で堂々と認めてきた「管理代行名義」は、管理会社にとっても、また管理組合にとっても、ある意味で便利な名義だった。だからこそ今でもかなりの組合が代行名義を使っている。標準管理委託契約で認めているのだから大丈夫だろうと思って長年使っている向きもあるだろう。
いまさら、建設省が手のひらを返したように、管理代行名義は「一時的を想定」と急に言われても戸惑う組合が多いのではないか?はしごをはずされた感じを持つかもしれない。
(4)建設省のとるべき態度
建設省は、方針を変えたのなら変えたとハッキリ言うべきだ。
「今までの「管理代行名義」容認方針は、不備で間違いだったが、急に変えるのはマズイから、取り敢えず、「一時的」にしよう」というのだろうか?どうも一時凌ぎの責任逃れのような気がしてならない。代行名義に確固たる自信があれば、正しいから使って良いという態度を貫徹すべきだし、危ないと思うなら使用禁止にすべきだろう。
そもそも、管理代行名義が何故危ないのか、その理由をきちんと示すべきではないのか?
平成11年2月4日衆議院予算委員会で法務省民事局長が「修繕積立金が「○○管理組合代行○○管理会社名義」で預金されている場合には、預金名義のほかに、預金通帳及び届出印鑑の管理状況、管理組合と管理代行会社との管理委託契約の内容等が考慮され、場合によっては管理代行会社の預金であると裁判所が判断する可能性がある。」と答弁しているが。建設省は、代行名義の「一時的」使用を認めるなら、その間管理組合が通帳と印鑑をどう管理すれば良いのか、管理委託契約がどうなっているべきか、など、管理組合が注意しなければならない事は何かについてきちんと示すべきだろう。
(5)三和高裁判決では代行問題無し?
我々松見町も、今は理事長名義にしているが、榮高に管理委託している間は「管理代行名義」だった。他のマンションでは、榮高単独名義の預金は銀行の担保に取られたが、管理代行名義は担保に取られていない。さすがに銀行も代理関係が明示されている代行名義の預金には手を出しかねたのではないかと見ている。実際に、「管理代行名義でも管理会社榮高のものだ」と主張したのは破産管財人だけだった。
それでは、代行名義が本当に安全か?と言うと勿論断言は出来ない。ただ、今回の三和銀行の高裁判決から見る限りは、管理会社単独名義でも○○口などマンション名が書き込んであれば管理組合に帰属することになるのだから、まして代行名義では、問題にならないと言えそうだが、どうだろうか。
(通達文その1)(注:下線太字はSaijoが強調)
建設省経動発第39号 平成11年 6月1日 中高層分譲共同住宅管理業者登録規程に係る 登録管理業者 あて 建設省建設経済局不動産業課長 中高層分譲共同住宅標準管理委託契約書等の運用について 近年、マンションのストックの増大、居住者のニーズの多様化等に伴って、マンション管理の適正化が重要な問題となっている。特に、マンションの管理組合が実際の管理業務を管理会社に委託していることが一般的となっている中で、管理費、修繕積立金等の保管をめぐるトラブルが依然見受けられるところである。 建設省においては、既に、マンションの管理業者が管理委託契約を締結する際に「中高層分譲共同住宅標準管理委託契約書」(以下標準管理委託契約書」という。)を指針として活用し、修繕積立金等の保管の適正化を図るよう、昭和57年及び平成4年に通達したところである(昭和57年5月21日建設省計動発第69号・建設省住民発第31号、平成4年12月25日建設省経動発第106号・建設省住管発第5号)が、いまだその趣旨が十分に浸透していない状況が見受けられる。 ついては、下記について管理組合との十分な意見調整を図られるとともに、いまだ措置されていない管理委託契約書にあってはすみやかにその見直しを図るよう努められたい。 記 平成4年12月25日建設省経動発第106号・建設省住管発第5号通達「中高層分譲共同住宅(マンション)に係る管理の適正化及び取引の公正の確保について」記第2の3中「管理費、修繕積立金等の保管については、その預金口座を管理業者名義にすることがないようにする」の徹底を図られたいこと。 なお、標準管理委託契約書別表第1・業務実施要領中「ニ 管理費等のうち修繕積立金については、○○銀行○○支店に○○マンション管理組合理事長名義(又は○○マンション管理組合管理代行○○管理会社名義)の口座を設けて、保管すること。」の記述については、本来修繕積立金の口座名義は管理組合理事長名義であるべきものであるが、マンションの分譲直後など管理組合理事長が選任されていない場合に限って一時的に「○○マンション管理組合管理代行○○管理会社名義」とすることを想定しているものであり、その後管理組合理事長が選任されたときにはすみやかに当該理事長名義とするべきものであること。また、昭和62年4月25日建設省告示第1035号「中高層分譲共同住宅管理業務処理準則」第6条「登録を受けた者は、管理組合から預託を受けた金銭又は有価証券を、管理組合以外の名義を用いて他の者に預託してはならない。ただし、管理委託契約に別段の定めをしたときは、この限りではない。」の運用についても、管理会社名義を用いて預託することについて当該管理組合から依頼があり、かつ、「○○マンション管理組合管理代行○○管理会社名義」という名義 を用いた場合でも、預託された財産は当該管理会社の財産となる場合があることを管理組合に十分周知させること。 なお、あわせて別紙を参考とされたい。 (別紙) ○平成11年2月4日衆議院予算委員会における法務省民事局長答弁の概要 一般論として、修繕積立金が「○○管理組合代行○○管理会社名義」で預金されている場合には、預金名義のほかに、預金通帳及び届出印鑑の管理状況、管理組合と管理代行会社との管理委託契約の内容等が考慮され、場合によっては管理代行会社の預金であると裁判所が判断する可能性がある。この場合に管理代行会社が破産したときは、その預金は管理代行会社の破産財団の構成する財産に帰属することになると考えられる。 |
(通達文その2)
平成4年12月25日 建設省経動発第106号 建設省住管発第5号 中高層分譲共同住宅(マンション)に係る管理の適正化及び取引の 公正の確保について 建設省建設経済局長 建設省住宅局長 近年、マンションのストックの増大、居住者のニーズの多様化等に伴って、マンションに係る管理の適正化及び取引の公正の確保が重要な政策課題となっている。 建設省においては、既に、「中高層共同住宅標準管理規約」及び「中高層共同住宅標準管理委託契約書」の指針としての活用等の指導(昭和57年5月21日建設省経動発第69号・建設省住民発第31号等)、「中高層分譲共同住宅管理業者登録規程」の制定(昭和60年8月5日建設省告示第1115号)、「中高層分譲共同住宅管理業務処理準則」の制定(昭和62年4月25日建設省告示第1035号)等の施策を講じてきたところであるが、本年5月の総務庁の「中高層分譲共同住宅の管理等に関する行政監察」によると、いまだ分譲マンションの管理及び取引について適正を欠く場合があるとの指摘がなされたところである。 本年5月に策定された「新不動産業ビジョン」においても、今後必要な施策として「不動産管理の高度化」「流通と管理の連携の強化」等が掲げられている。 ついては、貴団体におかれては、下記事項について留意するとともに、併せて貴団体加盟の業者に対する周知徹底及び指導を行われたい。 記 第1 管理規約の適正化 1 宅地建物取引業者若しくは管理業者が管理規約の案を作成する場合に「中高層共同住宅標準管理規約」(以下「標準管理規約」という。)を指針として活用すべきであることについて、昭和57年に通達したところであるが(昭和57年5月21日建設省経動発第69号・建設省住民発第31号)、十分な活用がなされていない管理規約も見受けられるため、この趣旨をさらに徹底すること。 2 宅地建物取引業者若しくは管理業者が管理規約の案を作成した場合には、管理組合に対し、当該規約案と併せて標準管理規約を提示し、その内容の周知を図るとともに、当該規約案と標準管理規約との主たる相違点についてその理由を説明するよう努めること。 宅地建物取引業者については、宅地建物取引業法第35条第1項第5号の2に基づき、規約案の中の一部の事項を説明することが義務付けられているが、法律上の説明義務の厳正な履行に加え、上記の説明に努めること。 3 管理業者は、管理委託契約を結んでいる管理組合が、昭和59年の建物の区分所有等に関する法律の改正に伴い無効となった事項を含む管理規約等明らかに不合理と思われる管理規約を使用している場合においては、当該管理規約を改正することが必要である旨、管理組合に対し周知を図ること。 第2 管理業者による管理業務の適正化 1 管理業者が管理委託契約を締結する際に「中高層共同住宅標準管理委託契約書」(以下「標準管理委託契約書」という。)を指針として活用すべきであることについて、昭和57年に通達したところであるが(昭和57年5月21日建設省経動発第69号・建設省住民発第31号)、十分な活用がなされていない管理委託契約も見受けられるため、この趣旨をさらに徹底すること。 2 宅地建物取引業者若しくは管理業者が管理委託契約書の案を作成した場合には、管理組合に対し、当該管理委託契約書の案と併せて標準管理委託契約書を提示し、その内容の周知を図るとともに、当該管理委託契約書案と標準管理委託契約書との主たる相違点についてその理由を説明するよう努めること。 3 管理業者は、管理委託契約の本旨に従い、受託した管理業務を適切に実施すること。特に、管理費、修繕積立金等の保管については、その預金口座を管理業者名義にすることがないようにするとともに、収支状況の定期の報告の励行についてさらに徹底すること。 4 建設省においては「中高層分譲共同住宅管理業者登録規程」に基づく管理業者の登録制度を実施しているところであるが、その登録件数はいまだ低位にとどまっており、今後、未登録の管理業者についての登録勧奨の一層の推進を図ること。また、宅地建物取引業者が、マンションの分譲に際して、当該マンションの管理業者を推薦する場合には、登録済の管理業者を推薦するよう努めること。 なお、登録申請が円滑に行われるよう、平成5年度を目途に社団法人高層住宅管理業協会の各地方支部(札幌、仙台、名古屋、大阪、広島、福岡)を経由して申請できることとするので、これを活用すること。 第3 長期修繕計画の策定の促進及び修繕費用の適切な積立て等 宅地建物取引業者にあってはマンションの分譲時に、また管理業者にあっては管理受託時に、マンションの実態に即した長期修繕計画の策定、これに基づく適切な修繕積立金の積立て及び適時の劣化珍断の実施の必要性について、管理組合に対する周知に努めること。 第4 宅地建物取引業者による取引の適正化 1 宅地建物取引業者は、マンションの取引に際して、宅地建物取引業法第35条に基づく重要事項説明及び同法第37条に基づく契約内容書面の交付を適正に実施しなければならないが、この旨さらに徹底を図ること。 2 宅地建物取引業者が、中古マンションの取引を行う場合において、当該マンションの建築年次及び内装・外装の修繕の実施状況について、故意に事実を告げず、又は不実のことを告げた場合には、宅地建物取引業法第47条第1号に違反することとなるので、その旨留意すること。 3 マンションの販売後に建物の不具合等が発見された場合においては、現在、法律上の瑕疵担保責任及び契約上のアフターサービス特約に基づいて、宅地建物取引業者がその補修を行っているところであるが、引き続きその適切な実施に努めること。 4 マンション販売広告の適正化を図るため、宅地建物取引菓法における取引に関する規制(第32条等)及び公正取引委員会の告示による「不動産の表示に関する公正競争規約」を遵守すること。また、モデルルームを利用する際に、展示物件と実際の販売予定物件が相違する場合には、その相違の状況を適正に表示すること。 |